私の家の近くでも、イチョウの黄葉が見頃を迎えています。

秋の陽光を浴びて輝く色に魅了され、しばらく見入ったり、写真に収めたりする人の姿が目立ちます。

ハラハラと舞う葉とともに、地面に落ちたギンナンを拾って楽しむ人も。

 

例えば、神社でギンナンを拾うと窃盗罪にあたるのでしょうか。

 

刑法第235条は、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と定めています。

 

以前、司法修習生にこのような質問をしたら、答えは①「窃盗罪になる」、②「ならない」、③「場合による」という意見に割れました。

 

  1. ギンナンは「財物」なので、窃盗罪になる。
  2. ギンナンは、公共施設に置いてある無料パンフレットと同じと言えるから、拾っても窃盗罪にはならない。
  3. 拾った場所が、境内の中か否か、拾った量の多少などの具体的状況で、窃盗罪になったりならなかったりする。

 

本件のポイントは、「他人の財物」を盗んだと言えるかです。

(1)ギンナンの「他人性」

ギンナンに対し、神社の占有(支配)は及んでいるか。

(2)ギンナンの「財物性」

ギンナンに財産的価値はあるか。

 

この2つの問いに、いずれもイエスでないと窃盗罪には当たりません。

設問の事実は曖昧過ぎて、もう少し詳しく特定しないと、(1)、(2)がイエスかどうかは不明です。

(1)については、拾った場所が境内の中であれば、イエスと言えるでしょう。境内の外でも、50cm離れただけか、5m、或いはそれ以上離れた場所かで、答えは違ってくるでしょう。

(2)についても、落ちていたからといって一概に無価値とは言えないでしょう。スーパーでギンナンが売られていますから。

そうすると、拾ったギンナンの量によっても、答えは違うでしょう。

数個拾ったのか、大きなビニール袋に一杯なのか、二杯なのか。一回拾っただけなのか、同じ人が毎日大量に拾っていくのか。量によっては、数千円以上の価値があるかもしれません。

その他にも、神社は一般人が拾うのを認めているのかなど、諸々の状況によっても答えは微妙に変わってきます。

 

この設問は、一義的な回答ができるほど十分な事実を開示していません。

有罪か無罪かを判断するのに十分な情報がないのですから、さらに詳細な事実を調査しなくては、結論は出ません。

しかし、実務では、十分な情報のないまま回答をせざるを得ないことが多く、十分な情報のないまま判決を下さざるを得ないことも少なくありません。

弁護士としては、如何にして十分に情報を収集していくか、時間の許す限り具体的事実を解明しよう、(それでも十分には収集できず)限られた情報の中でどこまで合理的に判断できるのか、という姿勢が大切になります。

 

弁護士 臼井義幸