司法取引が今日から開始されます。
容疑者や被告人が他人の犯罪を明らかにする見返りに検察官が起訴を見送ったり求刑を軽くしたりできる制度で、取り調べの可視化により供述証拠(自白)が得にくくなることへの対策として導入され、大企業や犯罪集団の上層部の摘発などにつながることが期待されています。
制度をうまく活用できれば、供述や証拠が得にくいため立件できなかった贈収賄や経済事件、暴力団犯罪などで首謀者をあぶり出すことを期待できますが、
私はそう単純ではないだろうと思います。
一方で、自分の罪を軽くしたい容疑者が虚偽の取引を持ちかけ無関係の人を巻き込む恐れもあります。
司法取引制度がなかった過去にも、虚偽の供述や曖昧な証拠で無実の人が逮捕される、無実の罪を着せられる、といった問題は繰り返されてきました。
司法取引には容疑者の弁護人が立ち会い、虚偽の供述には5年以下の懲役を科す、といった対策もとられますが、慎重な運用が求められます。
裁判制度は、真実が何か分からない中で人が人を裁いていかなければ維持できない不完全なシステムであるということを内包していると思います。
司法取引が始まる今こそ、客観的な証拠により合理的な疑いをいれない程度に犯罪事実の証明がなされているか、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原点に立ち返る必要があります。
また、その一方で、弁護人としては、供述証拠の証明力を客観的証拠(非供述証拠)により弾劾していく、
非供述証拠による地道な反証を、さらに追求していかなければならないと考えます。
信濃法律事務所 弁護士 臼井義幸