憲法39条は
「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」
と定めています。
有罪・無罪の確定判決を受けた事件について再度訴追されないことを保障したものです。
被告人が受ける有罪とされる危険・手続き的な負担を、同一の行為について二度課してはならないというもので(二重の危険の禁止)、これを一事不再理と言います。
この一事不再理に違反した起訴ではないかと争われた刑事裁判が、今週、長野地方裁判所佐久支部で行われました。
報道によると
「佐久市の市道で2015年3月、中学3年生の和田樹生(みきお)さん=当時(15)=を乗用車ではねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪で禁錮3年、執行猶予5年の判決が確定した後、同じ事故で道交法違反(速度超過)などの罪に問われた男性会社員(46)=北佐久郡御代田町=の論告求刑公判が20日、地裁佐久支部(勝又来未子裁判官)で開かれた。
検察側は懲役3月と罰金20万円を求刑。
弁護側は、同じ事件を2度裁くことを禁じた「一事不再理」に当たるとし、検察官の公訴権がないことを理由に有罪、無罪を判断せず、裁判を打ち切る「免訴」判決を求め、結審した。
判決は3月18日。
起訴状によると、被告は15年3月23日午後10時ごろ、佐久市佐久平駅北の市道を法定の最高速度を36キロ超える時速96キロで乗用車を運転したとしている。
論告で検察側は、速度超過について、樹生さんを死亡させた事故を起こす前の犯行であり、道交法違反と自動車運転処罰法違反が、別々に起訴できる「併合罪」の関係にあると指摘。前回裁判の判決で速度超過では「起訴されていない」とし、一事不再理には当たらないと主張した。
最終弁論で弁護側は、前回裁判で、「時速約70ないし80キロで進行した過失により」と速度超過を指摘した上で判決が下っていると反論。「同じ日時、場所で起きた事件を扱い、犯行も重なる」として、一事不再理の原則を理由に「免訴および無罪」を求めた。」
(信濃毎日新聞 2019.2.21)
法律上、時速30km以上の速度超過で罰金刑の対象になるのですが(時速30km未満ですと反則金にとどまります)、検察は、前裁判の時には、速度超過については30km以上の速度超過を立証できないとして起訴しなかったのでしょうか。
通常、前裁判の時にも、捜査を尽くしていれば、速度超過についても起訴できたのではないかとも思いますが、上記報道からだけでは詳細はよく分かりません。
形式的には、検察の言う通り、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪と速度超過の罪は併合罪の関係にあり、別個の事件ではあります。
もっとも、問題は、前裁判で起訴されなかった速度超過の事実(時速約70ないし80キロで進行した過失)が、①量刑のための一情状として考慮されたにとどまるのか、それとも、②むしろ過失を構成する事実として実質上これを処罰する趣旨で認定され量刑の資料として考慮されたのか、にあると思います。
仮に①であれば、速度超過の事実には前裁判の確定判決の一事不再理効は及ばない(起訴は適法)でしょう。
逆に、②の場合であれば、併合罪の関係にあっても、前裁判の確定判決の既判力はともかくとして、被告人のための二重の危険の禁止としての一事不再理の効力は速度超過の事実にも及ぶ(起訴は不適法で、免訴判決を下す)と解するのが相当でしょう。
ただ、上記報道からだけでは、本件が①にあたるか、②にあたるかはよく分からない部分もありますので、3月18日の判決を見守りたいと思います。