「弁護士に裏切られた」
神奈川県座間市の9人殺害事件で、強盗強制性交殺人などの罪に問われた無職白石隆浩被告(29)の裁判員裁判の第5回公判が10月8日、東京地裁立川支部で行われました。
報道によると
「白石被告は被告人質問で、弁護側の質問に答えない理由について「起訴内容を争わないということで選任したのに、公判前整理手続きに入ると急に争うと主張した。裏切られて根に持っている」と説明した。
白石被告はこの日も事件の事実関係に関し「弁護側の質問に答えるつもりは一切ない」と言明。弁護側が理由を尋ねると「起訴内容を争わず、簡潔に終わらせてと頼んでいた。私の希望に合わせるということだった」と不満を述べた。
大森顕・主任弁護人(49)は弁護方針を変えたことについて「捜査が進展し、証拠開示が進んだことで、各証拠から承諾があったと読み取った」と、9月30日の初公判後に報道陣に説明していた。」
(東京新聞 2020.10.8)
このように被告人がより重い罪(殺人の承諾はなかったこと)を自白しているが、弁護人としてはより軽い罪にあたる(承諾があった)と判断している場合に(この事件ではいずれにしても有罪ですが、全く無実の場合に被告人が有罪を認めているという場合もあります)、弁護人はどうすべきか。
弁護人が社会正義のために存在すると考えれば、このような被告人の意思を尊重すべきではないと言えるかもしれません。無実の者が処罰を受けるというのは社会正義に反するし、えん罪の温床にもなり得ます。
一方、弁護人はあくまでも被告人を弁護する、助けるために存在すると考えれば、被告人の意思に反する弁護活動はすべきではないと言えるでしょう。
どちらにウェイトを置くかの問題ではありますが、弁護士にとって難しい問題であり、この事件の弁護人のように、被告人の意思に反してでも社会正義を追求するというのも、一つの考え方だと思います。
もっとも、私は「弁護人はあくまでも被告人を弁護する、助けるために存在する、よって、被告人と十分に協議することが必要であるが(弁護方針が食い違うのであれば辞任することもあるでしょう)、最終的には被告人の意思を尊重すべき」と考えます。
社会正義の実現も弁護士の重要な任務であることは言うまでもありませんが、誰のための裁判なのかということを考えれば、弁護士にとってより重要なことは、被告人の意思を尊重すること、被告人との信頼関係を築くことであると考えます。
弁護士 臼井義幸