暴力や不貞行為などを理由に慰謝料請求をする場合、相手方が、それらの事実を認めないケースがよくあります。 協議や調停を経ても平行線を辿ると、争いは訴訟にまで進展することがありますが、訴訟では、慰謝料を請求する側が、暴力や不貞行為などの事実を立証する必要があります。 十分な立証ができない場合は、判決では、そのような事実がないものとして扱われます そこで、相手方が否認する場合(否認することが予想される場合)は、暴力や不貞行為などの事実を証明できる証拠を得ることが極めて重要になってきます。 このような証拠がないために泣き寝入りせざるを得なかったケースは本当にたくさんあります。 不貞行為とは、自由意思で配偶者以外の異性と肉体関係をもつことであるとされています。 ですので、例えば、デートをしている模様の写真だけでは必ずしも十分ではありません。 興信所に依頼し、2人がホテル等へ出入りする姿を写真などで撮影できれば、決定的な証拠となりえます。 そのほかにも、不貞相手に宛てた手紙やメール等も有力な証拠となります。 本人が不貞行為を認めている様子を録音することも考えられます。 一方、暴力の場合は、受傷箇所を日付入りで撮影した写真や、医師の診断書などが強力な証拠となります。 このように、訴訟での利用を視野に入れて確実な証拠を準備していくことが、後日、相手方に慰謝料請求をする場合に活きてきます。 確実な証拠を周到に準備していくには、やはり、法的な専門知識と実務経験を備えた弁護士に相談しながら慎重に進めていくのが賢明です。 婚姻関係の破綻後に、夫(妻)が異性と肉体関係を持ったとしても、特段の事情のない限り、不法行為責任は生じず、慰謝料請求はできません。 そのため、婚姻関係破綻の時期と肉体関係を持った時期の前後関係が重要なポイントになることがあります。 慰謝料額の算定基準としては、有責性の高さ、精神的苦痛・肉体的苦痛の程度、婚姻期間の長さ、年齢、未成年子の有無、有責配偶者の資力、無責の配偶者の資力、財産分与による経済的充足の程度などがあげられます。 では、慰謝料の相場はいくらか。 この点、不貞による慰謝料について、判例タイムズ1278号(’08 11/15)45頁に、当時岡山地方裁判所倉敷支部判事補であった安西裁判官の詳細な論考が載っています。 同裁判官が収集した27件の判決のうち、最低額は80万円、最高額は600万円で、平均は216万円とのことです。 夫が不貞をされた配偶者の場合の平均額は184万円、妻の事案は234万円と、妻が被害者の場合には若干手厚い(高い)損害が認められています。 離婚事案の平均額は208万円(うち請求者が夫の事案は193万円、妻の事案は223万円)、 婚姻破綻事案の平均額は234万円(うち請求者が夫の事案は183万円、妻の事案は249万円)であるのに対し、 婚姻を継続できる場合の平均額は140万円と少し低くなる傾向があるようです。 また、配偶者に不貞行為があった場合、その配偶者だけではなく、不貞行為の相手方に対しても慰謝料の請求をすることができます(連帯責任)。 不貞行為による慰謝料額の算定については、不貞行為を働いた当事者それぞれに特有の事情もありますから、配偶者に対して認められる慰謝料額と、不貞行為の相手方に対して認められる慰謝料額が、完全に一致するものではありません。 不貞をした配偶者とその相手方が負う慰謝料の損害賠償債務は連帯債務ですので、一方が不貞をされた配偶者に対し賠償した場合には、もう一方の者もその分だけ賠償したことになります。 この点について、平成31年2月に最高裁判所判決が出ていますので、こちらもご参照ください。
(このことを「証明責任を負う」と言います)。